2017年7月19日 水曜日
朗读者:ガク
BGM:羽田裕美 - I still remember
私は月の末に東京へ帰った。先生の避暑地を引き上げたのはそれよりずっと前であった。私は先生と別れる時に、「これから折々お宅へ伺っても宜ござんすか」と聞いた。先生は単簡にただ「ええいらっしゃい」といっただけであった。その時分の私は先生とよほど懇意になったつもりでいたので、先生からもう少し濃やかな言葉を予期して掛ったのである。それでこの物足りない返事が少し私の自信を傷めた。
月末,我返回到了东京,而先生比我更早地离开了避暑地。与先生分别的时候,我问道:“今后,我可以时常去拜访您吗?”先生只是淡淡地应了句,“嗯,欢迎”。那时,我本来觉得我们已经很熟识了,以为先生的回答会更加热情一些。因此,这个轻描淡写的回答多少还是有点挫伤了我的自信。
私はこういう事でよく先生から失望させられた。先生はそれに気が付いているようでもあり、また全く気が付かないようでもあった。私はまた軽微な失望を繰り返しながら、それがために先生から離れて行く気にはなれなかった。むしろそれとは反対で、不安に揺かされるたびに、もっと前へ進みたくなった。もっと前へ進めば、私の予期するあるものが、いつか眼の前に満足に現われて来るだろうと思った。
私は若かった。けれどもすべての人間に対して、若い血がこう素直に働こうとは思わなかった。私はなぜ先生に対してだけこんな心持が起るのか解らなかった。それが先生の亡くなった今日になって、始めて解って来た。
先生经常有类似这样的反应,这令我有些失望。他似乎有所察觉,但又似乎浑然不知。尽管我经常为此感到些许失望,但却也不想因此而离开先生。倒不如说与此相反,每次感到不安的时候,我都想要往前再进一步。我想,越是向前,我所期待的事情迟早会发生在我眼前,令自己感到满足。
那时的我还很年轻,但是还不至于对所有的人都怀抱着一腔热血、以诚相待。我也不知道为什么独独对先生有这种感觉。直到现在,先生已不在人间,我才开始明白。
先生は始めから私を嫌っていたのではなかったのである。先生が私に示した時々の素気ない挨拶や冷淡に見える動作は、私を遠ざけようとする不快の表現ではなかったのである。傷ましい先生は、自分に近づこうとする人間に、近づくほどの価値のないものだから止せという警告を与えたのである。他の懐かしみに応じない先生は、他を軽蔑する前に、まず自分を軽蔑していたものとみえる。
从一开始,先生都不讨厌我。他时常流露出对我冷淡的举止,也并非是要故意疏远我。内心满是伤痕的先生,只是在向想要靠近自己的人发出警告:我不是值得接近的人,企图接近的人请止步。不接受别人好意的先生,在轻视别人之前,首先轻视了自己。
私は無論先生を訪ねるつもりで東京へ帰って来た。帰ってから授業の始まるまでにはまだ二週間の日数があるので、そのうちに一度行っておこうと思った。しかし帰って二日三日と経たつうちに、鎌倉にいた時の気分が段々薄くなって来た。
そうしてその上に彩られる大都会の空気が、記憶の復活に伴う強い刺戟と共に、濃く私の心を染め付けた。私は往来で学生の顔を見るたびに新しい学年に対する希望と緊張とを感じた。私はしばらく先生の事を忘れた。
我回东京的时候还想要回去找先生的。从返回东京到开学,中间还有两周的时间,想着期间一定要去找先生一趟。但是在回来两三天之后,想回镰仓的热情便渐渐淡了下来。
再者,大都市五光十色的氛围,与记忆复活所带来的强烈刺激一起浓重地侵染着我的内心。而每当我在大街上看到学生们的脸庞,便感受到对于新学年的向往和紧张。一时间,我便把先生的事情抛到脑后了。
单词卡
折々(おりおり)⓪:<名> 时时,随时,每次
<副> 有时,偶尔
濃やか(こまやか)②:<形动> 深厚,浓厚;意味深长;细致,细微
傷める(いためる)③:<他动> 损伤,伤害;弄坏,弄烂
冷淡(れいたん)③:<名/形动> 冷漠,不热心;不关心,不感兴趣
軽蔑(けいべつ)⓪:<名/他サ> 轻蔑,轻视
日数(ひかず)⓪:<名> 日数,天数
刺戟(しげき)⓪:<名> 同「刺激」,刺激
復活(ふっかつ)⓪:<名/自他サ> 复活,复苏
结尾再送上ガク桑的朗读笔记哦
↓
故事讲到现在,
似乎又让人有点摸不着头脑
明明是千方百计想要认识、
想要靠近的先生
难道就这样轻易地忘记了吗?
欲知后事如何,
请看下回连载哦~